黒田東彦さんが日銀総裁となるのが感慨深い。
彼と知り合ったのは今から四半世紀も昔、1987年(昭和62年)のことだ。
私は朝日新聞経済部の記者。通称、「財研」と呼ばれる大蔵省記者クラブにいた。黒田さんは国際金融局の課長だった。気さくで明るい人で、説明がわかりやすかったから、何人もの記者が彼を囲み、国際会議の様子を談笑しながら聞いていたシーンを思い出す。
もっとも、当時の大蔵省は一に主計局、二に主計局、三四がなくて五に主税局といった感じだった。旧態依然たる発想の新聞社の上層部も同じように考えていた。
朝日の財研は経済部4人、政治部1人(派閥の長で総理候補だった宮沢喜一大蔵大臣をウオッチするため)の体制だったが、経済部はキャップの次の年次が主計局を担当、その次が主税局担当。
飛び切り若くて、キャップからも「お嬢ちゃん」などと呼ばれていた私(何しろ、夜中までハードに仕事をする財研に女性記者、しかも30歳過ぎたばかりなんて、全マスコミ通じて初めてだった)が、国際金融局と理財局と、今はなき銀行局と証券局、4つもの局を担当していたのだ。
だが、時はプラザ合意の2年後。円高がどんどん進み、日本中がバブル経済に突入していく過程。
外貨準備高や対外純資産、経常黒字が世界一になったとか、「最高を更新」などという記事を書きまくっていた。半年近くの間、朝日の一面トップの出稿量は全社員のうち私が一番で、その中には多くの特ダネも含まれた。
思えば記者として栄光の時代でもあった。(夜中のニュース番組「ZERO」の村尾キャスターは当時、理財局の課長補佐だった)
日本の銀行の国際金融市場でのオーバープレゼンスが問題となり、海外での活動を抑えるため、BIS(国際決済銀行)の銀行規制の新基準の議論が始まったころだ。安田火災海上(当時)の会長がゴッホの「ひまわり」を落札したり、三菱地所がティファニービルを買ったりして話題になった時代である。
もっとも、主計局や主税局が主流の当時の省内では、コッキンと呼ばれた国際金融局はハジパイか趣味人のような独特な存在(外務省に近い感覚で、事実、コッキンだけはワイシャツのカラーと身ごろの色が異なるなど、派手な服を着る人が多かった)だったが、黒田さんは、そこで今日に至る地歩を築きつつあったわけである。
スペシャリストだからこそ、世界の通貨当局のトップらと何年も渡り合ってツーカーの仲となり(すなわち、通貨マフィアと呼ばれる存在)、その後、財務官→アジア開発銀行総裁と「余人をもって代えがたい」道を歩んだのである。
黒田氏について「旧大蔵省出身だから日銀総裁に反対」などと言っている党がある。「何とバカな」と思う。
かつて日銀総裁が、旧大蔵省事務次官と日銀生え抜きの副総裁を交互に就任させた「指定席」だった時代がある。大蔵省出身がいけないというのは、こういうことを意味するのだ。
大蔵省のトップは偉いから、一番立派な日銀に天下りさせるという、内向き(国内、固定的な)発想だったことが問題なのである。為替が固定相場制で、限られた資金を、国内のどの産業に振り向けるかといった選択が重要だった戦後間もなく、および高度成長期の日銀トップなら、いざ知らず。
日銀総裁は、G8蔵相・中央銀行総裁会議のメンバーであり、通貨マフィアと呼ばれる人物が就任するのは、まさに適材適所である。そして、各国の為替問題を担当する通貨マフィアは民間人ではなれない職種なのである。
国際金融における日本の地位がたかまり、日本にとってもこれだけ為替問題が重要になって四半世紀たち、遅すぎたくらいの「通貨マフィア」登用である。
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