船戸与一著「満州国演義」全九巻を読み終えた。一気に、まとまった読書をした感あり。
昭和3年、張作霖爆殺(満州某重大事件)から満州事変、満州国建国、廬溝橋事件を経て太平洋戦争、さらに敗戦後21年までの、主に旧満州が舞台。太平洋戦争期にはマレーシア、シンガポール、ビルマ(現ミャンマー)、フィリピンそして敗戦後はシベリアへと広がる。
バラバラな個性の敷島家四兄弟(フィクション)の活動と内面を主軸にして、破滅に向かう時代を綿密に描いている。
太郎は東京帝大出身の外交官から満州国の高級官僚へ。真面目だが、関東軍が力を持つ中で何も主体的な仕事が出来ず嘆き節となる小心者。
自由気ままに生きる次郎は日本を飛び出し満州で馬賊の頭領として名を馳せ、部下をすべて失った後、陸軍特務機関の請負仕事に付く。仁義派で武闘には滅法強いが、インパール作戦に囚人部隊を率いて参加し、飢えと赤痢、マラリアで死ぬ。
三郎は陸軍士官学校卒の軍人で関東軍の花形憲兵将校から特務機関へ。占領地域における軍の略奪や強姦などを厳しく取り締まろうとする正義漢。現場主義で、数々の危険な場面に赴き、陸軍内の政治的闘争とは無縁。
ただ1人、気の弱い四郎は早稲田時代、無政府主義の劇団に入るが義母との性関係に悩み、渡満。北京語、上海語を習得するが阿片中毒になったり、殺されかけたりするなか、特務機関に弱みを握られ、気の進まぬ汚れ仕事に関与させられる後に満映へ、さらに関東軍で軍属として翻訳に従事。しかし、兄弟の中でただ1人生き延びて日本の土を踏む。
この本でよくわかったのは阿片の流通、独占販売の権益争いや紙幣偽造による中国経済の撹乱。ビルマのアウン・サンやインドのチャンドラ・ボースら独立運動家と日本のかかわり、日本陸軍の学校で「極めて優秀」と教官が感動したという朴正煕。
細菌戦研究の七三一部隊。風船爆弾の実験。
そして、陸海軍の対立はもとより、それぞれの日独伊三国同盟派対親英米派の対立、陸軍内の皇道派と統制派の対立が人事だけでなく、作戦にも影響し、指揮命令系統がめちゃくちゃになったり、誰も責任を取らない体制になったり。果ては貴重な情報を保身のために握り潰す参謀が出る始末。
ソ連が、ドイツ降伏から3ヶ月で対日参戦するとの極秘情報が複数のルートで得られていたにも関わらず、政府上層部が、日ソ中立条約を基にソ連仲介による米英との講和に期待をかけ続けた愚かさ!日本自身、独ソ戦争が始まった時、同条約を結んでいたにもかかわらず、ソ連が極東軍を対独戦に振り向けたらソ連に攻め込もうと、関東軍特種演習という名目で国境近くの北満州に大軍を動員した過去を持つのに。(この時はソ連が極東軍を欧州に移動させなかった)
何より米国との戦争は、欧州戦線でのドイツ優勢を前提に始めたのに、前提が崩れた後も戦争を止めようとしなかった。
そういうことが、しつこいほど描かれている著作で、巻を読み進むほど面白さが増した。

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